千葉の田舎、田畑のなかにぽつんとかまたき文庫」という地域文庫がありました。「かまたき」は土地の名前で「鎌滝」と書きます。村には本屋も図書館もなかったので、大人たちが子どもたちのためにお金を出し合ってつくったそうです。魚の図鑑を読んでから、裏の川に釣りに出かけたり、借りた本を樹の幹にもたれかかって読むうちに寝てしまったり。私の読書の原体験は自然とともにありました。

  • 「かまたき文庫」蔵書印。判子は紛失したとのこと。 預かった6冊はいずれも安野光雅さんの絵本。 『天動説の絵本』『もりのえほん』『旅の絵本I~Ⅳ』。なかでも『天動説の絵本』が好きだったのは覚えている。子どもだった自分には、天が動くことの意味はわからなかった。

あれから二十年。「かまたき文庫」はもうありません。いまや村に子どもはほとんどおらず、誰にも使われなくなってしまったからです。解体時、文庫の管理人をしていたのは私の母でした。建物の解体時に絵本を譲り受け、手元に残ったのはたった6冊。またここからはじめて、いつか、次代の子どもたちに届けられたら。実現するとすれば少し先の話です。まずは「かまたき文庫」という名前を借りることにしました。